エステを考えてみる

わが国では従来、額面発行が一般的であったが、1970年代後半に時価発行が普及し、現在ではほとんどが時価発行になっている(第24章参照)。

この背景のっとして、時価発行は額面発行よりも高い価格で株式を発行できるので、企業にとって有利であるとする考え方があるように思われる。 しかし、以下に述べるように、この考え方は正しくない。
数値例を用いて、額面発行と時価発行の違いについて理論的に整理してみよう。 [例1]株価200円(額面50円)発行済み株式数1、000万株のA杜が、割当率1対0、5の額面発行増資を実施する場合、株価にはどのような影響が出るであろうか。
効率的市場を前提にすると、200円という株価は、増資による調達資金の使用内容を織り込みずみの株価であると考えられる。 割当率が1対0、5であるので、これまで2株保有していた既存株主は50円支払うことによって新たに1株受け取ることになる。
この額面発行増資後の権利落ち株価は次のように計算される。 200円X2株・50円X1株450円2株・1株これは市場価格200円の株式3株を4株に分割する株式分割がおこなわれた場合の権利落ち株価と同じである。
このため、額面発行は時価発行増資と株式分割の2つを同時に実施することであると考えることができる。 このことは中開発行についても同様の計算で示すことができる。
次に、額面発行が企業の発行済み株式数に与える影響を時価発行の場合と比較してみよう。 額面発行増資の場合、A杜の増資金額は50円X500万株2、5億円で、増資後のA社の発行済み株式数は1、500万株になる。
A社が時価発行増資で同じ金額を調達する場合には、新規発行株数は2、5億円7200円125万株で、増資後の発行済み株式数は1、000万株・125万株1、125万株となるoこのように額面発行増資をおこなうと、株式数が時価発行の場合より375万株多い1、500万株となるのは3株が4株に分割された要因が含まれているためと考えることができる。 以上述べたように、額面発行や中開発行は時価発行増資と株式分割を同時におこなったものとみることができる。
したがって額面発行や中開発行が企業価値や株価に与える影響は、時価発行増資(新規株主の参入)要因と株式分割(単純な持ち分細分化)要因とに分けて考えることができる。 このうち、時価発行増資要因を考える際には、企業の増資で得た資金の使途が企業価値の増大に寄与するか否かが判断基準になる。
例えば、企業が増資で得た資金を用いて新規投資をおこなう場合には、その事業の収益率がその事業のリスクに見合った必要収益率を上回るか否かが問題になる。 また、企業が増資で得た資金を負債の返済にあてる場合には、その資本構成の変化が企業価値にどのような影響を与えるかが問題になる。

次に、株式分割要因については、株式分割自体は企業価値に影響を与えないと考えられる。 したがって、額面発行の性格を理論的に整理すれば「額面発行増資は時価よりも安い価格で新株が得られるので株主にとって有利だ」という観念がまったくの錯覚であることがわかる。
前記の数値例では確かに1株当たり50円の払い込みで権利落ち後150円の新株が得られるが、旧株が1株200円から150円に値下がりしているので、新株のキャピタルゲイン100円は旧株のキャピタルロス50円X2株で帳消しになるのである。 回内部留保と増資の資本コスト株主資本の資本コストについては、すでに説明したが、ここでは株主資本を内部留保で調達する場合でも、時価発行増資や額面発行増資で調達する場合でも、取引コストを無視すれば資本コストが同じになることを示そう。
[例2]B社は株主資本のみからなり、発行済み株式数が2億株で、毎期100億円(1株当たり50円)の税引利益をあげ、その全額を配当として支宇ムっている。 B杜は80億円(1株当たり40円)の投資を計画しており、この投資は来期以降、毎期一定の税引利益を生み出すと予想されている。
B社の株主の必要収益率が10%である場合、投資資金を内部留保で調達する場合でも、増資で調達する場合でも、現在の株価を維持するのに必要とされる投資の必要収益率は同じ10%になる。 新規投資をしない場合、B社の来期(1期)以降の配当は50円で一定なので、B杜の今期(0期)末の配当支払い後の株価は次のように計算される。
したがって、今期末の配当落ち直前の株価は500円・50円550円となる。 以下、投資額を内部留保でまかなう場合と増資でまかなう場合のどちらでも10%の収益率をあげれば、この株価を維持できることを示す。
2、1内部留保の場合。 投資額(1株当たり40円)を内部留保でまかなう場合、今期(0期)の1株当たり配当は50円から10円に減少し、来期以降はその投資があげる1株当たり追加利益分だけ株当たり配当が増加することになる。

この投資の収益率が10%と株主の必要収益率に等しければ、来期以降の1株当たり利益は、投資をおこなわない場合に比べて40円XO、14円だけ増加し54円になる。 今期の配当支払い後の株価は次のようになる。
したがって、配当支払い前の株価は540円・10円550円で、新規投資をおこなわない場合と同一になる。 このように、この新規投資が株価に影響を与えなかったのは、次の式が示すように、この投資が生み出すキャッシュフローを株主の必要収益率で割り引いた正味現在価値がゼロになるためである。
このように新規投資決定後、それまでの株価が維持されるためには、当期のインカム(配当)減少額が来期以降の増配分の現在価値(当期のキャピタルゲインとなる)でカバーされる(すなわち新規投資の正味現在価値がゼロ以上になる)ことが条件となる。 いいかえれば、新規投資の収益率が株主の必要収益率に等しければ、株価は維持され、株主の必要収益率を上回る場合には、当期のキャピタルゲインが当期のインカム減少分を上回り、株価は上昇する。
これは、これまでたびたび述べてきた投資決定の原理にほかならない。 2、2金利カバー比率。
新規投資額80億円(1株当たり40円)を時価発行で調達する場合、既存株主が今期受け取る配当額は50円のままであるが、来期以降は投資により増加した配当総額を新規参入株主と分け合うことになる。 この場合、新規株主はB社に80億円投資するが、必要収益率が10%なので1期以降、毎年8億円の配当を要求する。
新規投資の収益率が株主の必要収益率10%に等しければ、来期以降の利益総額は80億円XO、18億円だけ増加するが、ちょうどその分だけ新規株主に配当されることになるので、既存株主が来期以降受け取る配当は新規投資をおこなわない場合と変わらない。 したがって、この新規投資の決定は株価に影響を与えないことになる。
このように、投資資金を時価発行増資で調達する場合も、新規投資の収益率が株主の必要収益率と等しい限り、新規投資の利益寄与と株式数増加の両方の効果を反映した株価は、それ以前の株価と等しくなる。 新規投資の収益率が株主の必要収益率を上回れば、新規投資の利益寄与が株式数増大の影響を上回るので、新規投資を織り込んだ株価は上昇することになる。

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